IOBC(国際生物防除機構)温帯地域の施設園芸での生物的防除会議
(地中海周辺国部門)参加報告  和田哲夫(生物的防除部会副会長) 

日時:2018年9月4日―9月8日 
場所:リスボン郊外オエイラズ INIAV内 (National institute of Agri and Vet)
主催:IOBC WPRS (International Organization of Biological Control, West Palaearctic Reginonal Section 旧北区部門西地域 なんと古い訳語でしょうか。。)
参集者:約100名 内訳:下記の通り。 北西ヨーロッパ部門より少ない参加者。
主催国ポルトガル(国研、バイオベストポルトガルなど)
スペイン(ヴァレンシア研究所、コパートスペイン、アグリバイオ(スペインでのマルハナ、天敵の現地生産をしている会社 社員数 数百名)
仏(INRA国研)、伊(バイオプラネット現地の天敵生産会社社員70名)
蘭(大学、国研、コパート)英(Russel IPM (イギリスの天敵メーカー)
カナダ(国研)、イスラエル(Biobee マルハナ天敵の生産輸出会社 コパートの下請けをすることも。日本にも一部輸出)、台湾(民間栽培会社 天敵の生産も)
日本(農水省 農研西日本 安部氏)、その他ベルギー、モロッコ、トルコ、ギリシャ、インドなど。
豪州(天敵製造会社 アグリセクトへカブリダニ供給 在パース)

1.講演について
約50講演+10ポスター発表

  • ・主に現場でのIPMの実例

  • ・地中海諸国では、害虫の密度が高く、日本と同様に化学農薬の使用が多い。

  • ・オランダ、イギリス、北欧とは違う天敵が必要であり、それがマクロローファスとタバコカスミカメ。両種とも日本では登録がないが、トマトでは必須な天敵である。

  • ・Tuta absolutaというトマトキバガの生物防除に苦慮している。タバコは少し弱い。フェロモントラップが効果あるようである。ポルトガル、スペインなど。

  • ・カボチャをハウスの外に植えておくと、タバココナジラミが多数トラップされる。スペイン。

  • ・カナダでは花卉類(菊)のスリップスF.occidentalis にボタニガード、サフオイルなどの溶液にディップすることで65-95%防除できた。とくにオイル製剤がいい。

  • ・アルテミアという塩湖に生息するアミ(甲殻類)の卵をオリウスの餌としてハウスに供給することによりマクロローファスカスミカメだけでなく、オリウスによるハナアザミウマの防除率が向上した。(イスラエル)ミカンキイロアザミウマ対策。蘭ベルギーでも 実践。

  アルテミアの品質が重要。

  • ・エサダニであるサトウダニをハウス内に供給することにより、ミヤコカブリダニの効果がアップ(スペイン)

  • ・その他天敵の存在による植物自体の防除機構がアップする抵抗性誘導、植物extractsによる防除、Tuta absolutaの寄生天敵などなど。

  • ・トマトはTYLCV以外にスポットウイルスが問題。天敵を使うほうが、ウイルスの感染は低くなる。またウイルスのストレインが突然変異により抵抗性品種でも感染することが判明してきている。


2.ヨーロッパの天敵利用状況 調査
各国の参加者、コパートなどより以下聴取。

  • ・天敵利用によって化学農薬の使用量が減少するわけではない。

  • ・stringentな登録規制による減少と新しい投下量の少ない農薬にシフトしていくことで減少している。イタリアのオーガニックの面積は主にpasture などである。

  • ・国ごとの施設での天敵利用の%は、下記のようである。

    • 1.90%以上 オランダ、ベルギー、北欧など。

    • 2.40-80% スペイン イチゴ(40%)―パプリカ(90%)

    • 3.イタリア 北部トマト 90%(マクロローファス)、 南部トマト 45% (ネシディオコリス)

    • 4.最大のIPM利用国は 1.メキシコ、2.アメリカ、3.スペイン、4.オランダ、5.フランス、6.エチオピアなど。そのあと日本、イタリア。

    • 5.要するに、アメリカへ野菜を供給するメキシコ、ヨーロッパへのスペイン、オランダなど野菜輸出国での天敵利用が伸びている。

    • 6.日本は輸出国ではないので、お茶や高級果樹などでの生物防除は将来の期待できるかもしれない。

    • 7.海外から、とくに韓国、中国、メキシコ、オランダなどからの野菜輸入に対抗するために、日本の野菜での生物防除は重要な防波堤になりうると考えられる。(日本の施設農家を守ることにもなる)


以上

写真説明:
10ヘクタール程度の大型プラスティックハウスでトマト栽培。おもにタバコカスミカメ使用。施設の建設コストは5億円以下。日本では10億円から30億円かかる。

見学したトマトハウスは期せずして作家檀一雄が数年滞在した大西洋岸の町サンタクルスの近郊にあり、現地には同氏の記念碑もあり、町の名所として位置付けていきたいとのこと。

和田哲夫記  2018.10.01