天敵の話 第2回

天敵とパンダ「カンカンとランラン」


今回の話は1972年の田中角栄首相の共同声明のための中国訪問の際に「天敵」がお土産として中国に渡ったという話です。

シルベストリコバチシルベストリコバチ1972年1972年9月29日北京で田中角栄首相は中華人民共和国政府の周恩来首相と共同声明に調印しました。これにより両国間の戦争状態は終わり,はじめて国交が開かれました。
令和の元号になって初めての国賓はアメリカのトランプ大統領で、天皇陛下へのお土産は楽器のビオラでした。
また、小泉純一郎首相が2002年9月 17日に北朝鮮を訪問した際には、沢山のマツタケを北朝鮮からお土産にもらったことがマスコミで話題になりました。


このように、国賓の訪問や大事な交渉の際には相互にお土産がやり取りされているようです。

ルビーアカヤドリコバチルビーアカヤドリ コバチ静岡園柑橘試験場に勤務していた、1972年8月のある日、農水省植物防疫課から電話が入りました。今回の田中角栄首相の中国訪問に際し、中国からの要望事項に天敵が含まれているので、準備してほしいとの要請でした。中国から要請された天敵はベダリアテントウムシRodolia cardinalis (MULSANT)、ルビーアカヤドリコバチAnicetus beneficus、シルベストリコバチEncarsia smithiの3種でした。
それにしても不思議なのはシルベストコバチとルビーアカヤドリコバチの原産地は中国でシルベストリコバチは大正時代にイタリアの昆虫学者シルベストリ博士によって中国の広東州から我が国にから導入されたものです。ルビーアカヤドリコバチは中国やインドが
原産地とされています。また、べダリアテントウムシは前号で述べたように世界各地に分布するようになっています。
3種の天敵は飼育中のものや柑橘園から採集、田中首相とともに無事、中国に渡ったのです。
10月28日、パンダのランランとカンカンが上野動物園に到着しました。9月に送った天敵への返礼だったのでしょうか、それとも?
天敵が外国との交渉において大きな役割を果たした最初の事例でしょう。

べダリアテントウムシべダリアテントウムシ

その後、静岡県と農水省は、1980(昭和55)年、中国へ「静岡県柑橘害虫天敵利用技術交流団」を派遣し、中国政府の協力により、9月15日~10月5日までの20日間天敵の探索を行いヤノネカイガラムシの天敵「ヤノネキイロコバチ」と「ヤノネツヤコバチ」の導入に成功しました。